短刀 銘:於越後國義光造之
平成二年十一月九日
Tanto:OnoYoshimitsu
現代・東京(新潟)
無鑑査刀匠
刃長:29.3(九寸七分弱) 反り:0.4 元幅:3.07 元重ね:0.63 穴1
【コメント】
現代備前伝丁字刃の最高峰、無鑑査大野義光による、加賀前田家伝来の名物、『大青江』写しの傑作です。
義光は吉川三男と言い、昭和二十三年、新潟県西蒲原郡黒埼町大野(現新潟市西区大野町)に生まれました。同四十四年に吉原義人門下に入り、同五十年には新作名刀展に初出品、翌年独立し、地元新潟に鍛刀場を設立、以降高松宮賞五回の他、文化庁長官賞など特賞を多数受賞、同六十二年には無鑑査認定となりました。備前伝丁字刃の探究、美しさに於いては、他の追随を許さず、國宝『山鳥毛』写しを始め、備前古名刀写しを次々世に送り出しています。『大野丁子』と呼称される華麗な丁子乱れを完成させた、昭和、平成を代表する名工で、自らも茎に刻み、一般的にも今や本姓の如く使われる『大野』は、生地の地名に由来しています。
本作は平成二年、同工四十二歳の頃の作、加賀前田家に伝来した名物短刀『大青江』を忠実に写したものです。本歌は南北朝期青江派の名工、青江次直作で、南北朝期に於ける青江派の最高傑作としても名高い名品です。細やかで上品な肌立ちを見せる小板目は、鎬寄りほのかに直調の映り立ち、大変良く詰んで地景を交えた最上の鍛えで、同工の真骨頂とも言える華麗な逆丁子乱れは、刃縁沸匂い深く、明るく締まっており、地刃の冴えは同行中最上であると鑑せられます。本作の平成二年と言えば、翌年には林原美術館に於いて、個展『大野義光重花丁子の世界~古刀備前を追う~』を控えた、心技体全てに於いて充実した最良の時期、また試行錯誤を繰り返してきた『大野丁子』が遂に完成した時期でもあります。本作をご覧頂ければ、地刃に一点の曇りなく、完璧な『大青江』写し、完璧な『大野丁子』であることがご理解頂けるはずです。加えて生ぶ刃も残る健全さ、最上研磨済み、ハバキもお洒落です。欠点が見当たりません。